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つくばに住む人間なら、誰もが一度は通った店がある。「らーめん三水」もそのひとつだ。1995年の開店以来、30年にわたって地元の人たちのソウルフードであり続けた店が、今年1月15日に突如閉店した。あの日、つくばから一つの灯りが消えた。
だが、この話には続きがある。茨城県内で「清六家」16店舗を展開する有限会社コン・コースが三水を引き継ぎ、11月22日に復活オープンさせるというのだ。場所はつくば市筑穂。ただ看板を掛け替えるのではない。メニューもスタッフも店の雰囲気も、可能な限りあの三水をそのまま再現するという。これは単なる新店オープンではない。つくばの記憶を呼び戻す試みなのだ。
三水の歴史を振り返ると、この店がどれほど地域に根ざしていたかがよくわかる。開店当初は夕方から深夜のみの営業でカウンター席だけ、駐車場も店の前だけという小さな店だった。それが数年後には昼営業も始め駐車場を広げ少しずつ変化していった。
当時の光景が目に浮かぶ。ランチ時に店の外で順番を待つ客たち。席が空くと黙々と座り、黙々とラーメンを食べ、食べ終わるとどんぶりをカウンターに上げ、自分でテーブルを拭いて帰る。そんな暗黙のルールが客の間に自然と生まれていた。
やがて周辺に店が増え、ラーメン店も乱立するようになった。三水は店を改装し、駐車場をさらに広げ、テーブル席も増やした。この頃から餃子や高菜、ご飯物も登場する。ファミリー層や大人数での来店が増え、ランチセットも始まった。カウンターで黙々と食べる店から家族で訪れる店へ。時代とともに三水も変わっていったのだ。
そして気がつけば創業30年。つくばの風景の一部として当たり前にそこにあった三水が今年1月15日に幕を下ろした。閉店を知った客たちは、最後の一杯を求めて店に押し寄せた。惜しむ声は尽きなかった。

コン・コースが三水を引き継ぐと決めたのは、そんな客たちの声を聞いたからだろう。代表取締役の大関虎之介氏は、三水を単に「引き継ぐ」のではなく、「復活させる」ことを選んだ。それも、可能な限り完全再現で。

看板、厨房機器、食器、テーブル。旧店舗から撤去したものを全て新店舗で使う。店内の配置もできる限りあの三水のままだ。動線や衛生面で必要な変更は加えたというが基本的な雰囲気は守る。そして何より心強いのは、先代の三水を支えたベテランスタッフも復帰することだ。「あの三水を守りたい」という想いに賛同し、再び厨房に立つという。


三水といえば、やはり醤油らーめんだ。この価格で並盛・中盛・大盛のサイズアップが無料。学生時代、この太っ腹なシステムにどれだけ助けられたことか。シンプルな醤油スープにストレートな麺。飾らない味が逆に癖になる。


もう一つの看板メニューが味噌三水らーめん。こちらは1,290円とやや値が張るが濃厚な味噌の旨みがたまらない。醤油が日常なら、味噌は週末の贅沢だった。そして醤油ネギつけそば890円。ネギの爽やかさがつけ汁の濃さとバランスを取る。

忘れちゃいけないのが手包み餃子だ。6個で480円。ラーメンと餃子のセットは、三水の黄金コースである。パリッと焼けた皮に、ジューシーな具。これをラーメンと一緒に食べれば、もう何も言うことはない。
コン・コースという会社について少し触れておこう。2001年設立で、茨城県内に「清六家」16店舗を展開するラーメン店だ。本社はつくば市北条にある。FC展開も行い、スープやチャーシューの卸もしている。つまり、ラーメンのプロ集団である。
社名の「CON COURSE」は、駅の広場のように「人が集まる場所」という意味だという。飲食店を通じて人が集まる場を提供する。なかなか良い理念じゃないか。
今後は清六家に加え、「らーめん三水」と「喜多方ラーメン坂内」の2ブランドも展開していくという。他ブランドも開発中とのこと。野心的だが、三水の復活を見る限り、この会社は単に店舗を増やすだけではない。地域の記憶を大切にしながら、新しい食の場を作ろうとしているように見える。
閉店から約10カ月。三水が帰ってくる。ベテランスタッフも戻る。看板も食器もあの頃のままだ。変わるのは場所だけ。つくば市筑穂という新天地で三水は再び灯りを灯す。
この復活劇は単なるビジネスの話ではない。地域に愛された店を消さないという意志の話だ。コン・コースの決断は立派だし、戻ってきたスタッフたちの覚悟も素晴らしい。そして何より、三水を惜しんだ客たちの声がこの復活を後押ししたのだろう。
11月22日。つくばに住む人間なら、この日をカレンダーに印をつけておくべきだ。あの醤油らーめんをもう一度食べられる日が来る。並盛で頼むか大盛にするか。餃子も頼むか。そんなことを考えながら、復活の日を待ちたい。
三水よ、おかえり。そして、待ってたぞ。
男の感性に火をつける、ライフスタイルWEBマガジン「GENTS-ジェンツ-」運営。
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