つくば市

つくばし

つくば市(つくばし)は、茨城県の県南地域に位置する市で、日本最大の学術都市として知られています。筑波研究学園都市の中核をなし、国際会議観光都市、業務核都市に指定されています。2011年には総合特別区域法に基づく国際戦略総合特別区域にも指定されました。

概要

基本データ

  • 人口: 約26万人(2025年時点)
  • 面積: 283.72平方キロメートル
  • 人口密度: 約923.5人/km²
  • 市制施行: 1987年(昭和62年)11月30日
  • 位置: 東京から北東約60km、成田空港から北西約40km

つくば市は平仮名表記が正式名称であり、茨城県内初のひらがな市名となりました。これは「筑波」の「筑」を「ちく」と誤読される恐れがあることや、ひらがなの方がシンプルで現代的であるという考えから採用されました。

歴史

筑波研究学園都市建設前

つくば市域は、かつて筑波郡と新治郡に属する農村地帯でした。北端には古くから信仰の対象となってきた筑波山があり、万葉集にも詠まれるなど、日本の歴史と深い関わりを持つ地域でした。

筑波研究学園都市建設計画

背景と目的

1950年代、東京は急激な人口増加により過密状態となっていました。このため政府は、1956年に首都圏整備委員会を設置し、首都機能の一部移転に関する検討を開始しました。

筑波研究学園都市建設の主な目的は以下の通りです:

  1. 東京の過密緩和: 必ずしも東京に立地する必要のない国の研究機関等を計画的に移転
  2. 高水準の研究教育拠点の形成: 日本の科学技術発展の中核となる研究学園都市の建設

建設の経緯

  • 1963年: 研究・学園都市の建設地を筑波地区とする閣議了解
  • 1968年: 東京からの研究機関移転開始
  • 1970年: 筑波研究学園都市建設法制定・施行
  • 1973年: 筑波大学開学
  • 1980年: 43の試験研究・教育機関等の移転完了
  • 1985年: 国際科学技術博覧会(つくば万博)開催、常磐自動車道開通
  • 1987年: 谷田部町・大穂町・豊里町・桜村の3町1村が合併し、つくば市誕生
  • 2005年: つくばエクスプレス(TX)開通
  • 2019年: G20茨城つくば貿易・デジタル経済大臣会合開催

市域の変遷

つくば市は以下の自治体の合併により現在の市域を形成しています:

  • 1987年: 筑波郡谷田部町・大穂町・豊里町、新治郡桜村の合併によりつくば市誕生
  • 1988年: 筑波郡筑波町を編入
  • 2002年: 稲敷郡茎崎町を編入

地理

地形

つくば市は筑波山を除き、関東平野の一部である筑波台地上に位置しています。標高20〜30mの平坦な地形で、関東ローム層に覆われています。

  • 山: 筑波山(877m)、宝篋山(小田山)、城山
  • 河川: 小貝川、桜川、東谷田川、西谷田川、小野川、花室川、稲荷川など

興味深い地理的特徴として、つくば市の9月の標高は4月より2cm低くなります。これは5月から8月にかけて水田灌漑用に大量の地下水をくみ上げるためです。

気候

つくば市は温暖湿潤気候に属し、四季が明瞭です。関東平野に位置するため比較的温暖で、夏は高温多湿、冬は乾燥した晴天の日が多い気候となっています。

都市構造

筑波研究学園都市は大きく2つの地区で構成されています:

研究学園地区(約2,700ヘクタール)

市の中央部に位置し、山手線の内側とほぼ同じ面積を持ちます。以下の3つのエリアに分かれています:

  1. 都心地区: 中核都市にふさわしい都市機能が集積
  2. 研究・教育施設地区: 国等の試験研究・教育機関が立地
  3. 住宅地区: 教育、福祉、商業等が適正に配置された住宅地

周辺開発地区

研究学園地区以外の区域で、つくば市の約9割の面積を占めます。研究開発型の工業団地が整備され、つくばエクスプレス沿線開発も進行しています。

特徴的な都市インフラ

筑波研究学園都市の大きな特徴の一つが、総延長約48kmにおよぶペデストリアンデッキ(歩行者専用道路)です。

  • つくば公園通り: 筑波大学から赤塚公園まで幅員10〜20m、延長約10kmの歩行者専用道路
  • 車道と完全に分離された歩行者・自転車優先のネットワーク
  • 公園、学校、商業施設などが沿道に配置

この設計は、1960年代の時代背景として、アメリカ型の自動車中心社会への疑問と批判があり、「コンパクトシティ」「歩車分離」「自転車優先の域内交通」などの先進的な発想が取り入れられました。

人口動向

人口増加の推移

つくば市は日本国内でも数少ない人口増加都市です:

  • 2023年: 人口増加率2.30%で市区部において全国1位を記録(平成7年以降初)
  • 2016年以降: 人口増加率1.5%前後で堅調に推移
  • 2020〜2022年: 全国トップ10に入る増加率を継続
  • 転入超過: 一般市において2年連続で全国最多

将来人口予測

国立社会保障・人口問題研究所の推計によると:

  • 2030年: 25万8,539人
  • 2035年: 26万524人(この時点で水戸市を抜き県内最大都市へ)
  • 2040年: 26万559人(ピーク)
  • 2050年: 25万6,124人

人口増加の要因

  1. つくばエクスプレス沿線の宅地開発: 特にTX駅近辺に子育て世帯が転入
  2. 研究機関の集積: 国内外の研究者の流入
  3. 東京へのアクセスの良さ: 秋葉原まで最短45分
  4. 新型コロナ後の変化: リモートワークの普及により、都心からの移住が増加
  5. 外国人の転入活性化: 2022年以降、新型コロナの影響で控えられていた国外からの転入が再開

研究機関・教育機関

つくば市は「科学のまち」として、世界有数の研究機関が集積しています。

主要研究機関

国立研究機関(29機関)

  • 筑波大学: 日本を代表する総合大学の一つ
  • 産業技術総合研究所(産総研): 日本最大級の公的研究機関
  • JAXA筑波宇宙センター: 日本の宇宙開発の中核施設
    • 人工衛星の開発・試験
    • 国際宇宙ステーション「きぼう」の運用管制
    • 宇宙飛行士の養成
  • 物質・材料研究機構(NIMS): 材料科学の世界的研究拠点
  • 高エネルギー加速器研究機構(KEK): 素粒子物理学研究
  • 国土地理院: 日本の地図作成・測量の中枢
  • 農業・食品産業技術総合研究機構: 農業研究の中核
  • 国立環境研究所: 環境研究の拠点
  • 防災科学技術研究所: 防災・減災研究

民間研究機関

民間を含めると約300の研究機関・企業が立地しており、総計で約2万人の研究従事者が活動しています。

研究実績

  • ノーベル賞受賞者輩出: 筑波大学関係者から複数のノーベル賞受賞者(白川英樹博士:2000年化学賞など)
  • 博士号取得者: 日本人の博士号取得者約7,215人(2012年時点)
  • 国際的な研究: 外国人研究者約6,200人が従事(2019年)
  • ベンチャー企業: 1,000社を超えるベンチャー企業が活動

教育施設

初等・中等教育

つくば市は「社会力」の育成を掲げ、独自のカリキュラムを採用:

  • つくばスタイル科: 環境教育、国際理解教育、ICT教育、科学技術教育を重点的に実施
  • つくばインターナショナルスクール: 外国人子弟向けに国際基準に基づいた教育を提供

交通

鉄道

つくばエクスプレス(TX)

2005年8月24日に開業した首都圏新都市鉄道の路線で、つくば市の発展に大きく寄与しています。

  • 路線: 秋葉原駅(東京都千代田区)〜つくば駅(つくば市)
  • 距離: 58.3km、20駅
  • 最高速度: 130km/h
  • 所要時間: 最短45分
  • つくば市内の駅: つくば駅、研究学園駅、万博記念公園駅、みどりの駅の4駅

特徴:

  • 全区間が地下または高架で踏切なし
  • 8両編成化事業を進行中(2030年代前半のサービス開始予定)
  • 東京駅延伸計画あり(2025年秋以降、調査実施予定)

その他の鉄道

  • JR常磐線: 最寄り駅は荒川沖駅、ひたち野うしく駅

道路

  • 常磐自動車道: 桜土浦ICが最寄り
  • 首都圏中央連絡自動車道(圏央道): つくば中央IC、つくば牛久ICなど
  • 主要国道: 国道6号、国道354号、国道408号

バス

  • 高速バス: 東京駅、羽田空港、成田空港、水戸方面への便あり
  • つくバス: 市コミュニティバス(2006年運行開始)
  • つくばサイエンスツアーバス: 土日祝日に研究機関等を巡回

観光・文化

主要観光スポット

筑波山

つくば市を象徴する観光地で、日本百名山の一つです。

  • 標高: 男体山871m、女体山877m
  • 別名: 紫峰(朝夕に山肌の色が変わることから)
  • 愛称: 「西の富士、東の筑波」
  • 特徴:
    • 1,000種以上の植物が群生する植物研究の宝庫
    • ケーブルカーとロープウェイで山頂までアクセス可能
    • 関東平野を一望でき、条件が良ければ富士山やスカイツリーも見える

筑波山神社

  • 筑波山を御神体とする由緒ある神社
  • 祭神: 筑波男大神(伊弉諾尊)と筑波女大神(伊弉冉尊)
  • 縁結び、夫婦和合、家内安全、子授けの御神徳

アクセス

  • つくばエクスプレスつくば駅から直行バスで約40分
  • 筑波山ケーブルカー(全長1,634m、所要8分)
  • 筑波山ロープウェイ(全長1,296m、所要6分)

JAXA筑波宇宙センター

  • 展示館「スペースドーム」で実物大の人工衛星や「きぼう」実験棟を見学可能
  • ガイド付き見学ツアーあり(要予約、18歳以上有料)
  • 土日祝日は「つくばサイエンスツアーバス」でアクセス可能

その他の観光施設

  • つくばエキスポセンター: 科学館・プラネタリウム
  • 産総研 AIST-Cube: 先端技術の展示施設
  • 地質標本館: 地球科学の標本展示
  • 筑波山梅林: 約1,000本の梅が咲く春の名所
  • 洞峰公園: つくば市最大規模の公園(約20ha)
  • 平沢官衙遺跡: 奈良・平安時代の郡役所跡(国指定史跡)
  • 小田城跡: 鎌倉時代から戦国時代の城跡

イベント・祭り

  • 筑波山梅まつり: 早春の代表的イベント
  • つくばフェスティバル: 毎年5月開催、世界各国の文化に触れられる国際色豊かなイベント
  • 筑波山紅葉ライトアップ: 秋の夜間ケーブルカー運行
  • つくばラーメンフェスタ: 北関東最大級のラーメンイベント

文化施設

  • つくば美術館
  • ノバホール(つくば市民ホール)
  • つくば国際会議場
  • 筑波大学ギャラリー: ノーベル賞受賞者やオリンピック選手の展示

国際都市としての特徴

外国人居住者

つくば市は日本有数の国際都市です:

  • 外国人人口: 約12,663人(2023年12月時点)
  • 出身国・地域: 144カ国
  • 人口比率: 約4.9%(日本全体の約2.2%に比べて高い)
  • 特徴: 高度な経験を持つ研究者や留学生が多い

姉妹都市・友好都市

  • アメリカ合衆国: ケンブリッジ市、アーバイン市
  • フランス: グルノーブル市
  • 中国: 深圳市(友好都市)
  • ドイツ: ボーフム市(連携都市)
  • その他、韓国大田広域市などとも交流

国際交流活動

  • つくばフェスティバル: 世界各国の文化・芸能、料理を楽しめる年次イベント
  • 第2次つくば市グローバル化基本指針: 「外国人・日本人の区別なく、すべての人にとって住みやすいグローバル都市」を目指す
  • 多言語サービス: 外国人住民の生活をサポートする様々なサービスを提供

国際会議の開催

  • G7茨城・つくば科学技術大臣会合(2016年)
  • G20茨城つくば貿易・デジタル経済大臣会合(2019年)
  • 第17回世界湖沼会議(2018年)

産業・経済

財政

  • 財政力指数: 1.07(2023年度) – 地方交付税の不交付団体
  • 歳入: 約1,187億円(2023年度決算)
  • 歳出: 約1,126億円(2023年度決算)

産業構造

研究開発産業

つくば市の最大の特徴は研究開発産業の集積です:

  • つくば国際戦略総合特区(2011年指定): つくば発の新事業・新産業創出を推進
  • スタートアップ・エコシステム拠点都市(2020年指定): 東京都とともに世界に伍するスタートアップ拠点形成を目指す
  • ベンチャー企業: 1,000社超
  • 産学官連携: 研究機関、大学、企業の協力体制

農業

つくば市は都市部でありながら、優れた農業地帯でもあります:

  • 筑波北条米: 関東きっての良質米産地、甘味と粘りが強く、昭和初期には皇室にも献上
  • 福来みかん: 筑波山麓特産の小型ミカン
  • その他、野菜や果物の生産も盛ん

商業

  • ラーメン激戦区: 市内に200店以上のラーメン店、東京ラーメンショーでグランプリを獲得した店舗も
  • つくばセンター地区: 商業・業務の中心地
  • 研究学園駅周辺: TX開業後、急速に商業施設が集積

市の特徴と魅力

緑豊かな環境

  • 市民一人当たりの公園面積: 約10㎡(全国平均約6㎡を上回る)
  • 計画的な都市開発により、緑地が豊富に保全

教育環境

  • 研究機関の集積を活かした科学教育
  • 国際理解教育の充実
  • ICT教育の先進的取り組み

生活利便性

  • 東京都心へ45分のアクセス
  • 充実した商業施設
  • 整備された都市インフラ
  • 豊富な文化・スポーツ施設

先進的な取り組み

  • つくばモビリティロボット実験特区: 自動運転など次世代モビリティの実証実験
  • スマートシティ: ICTを活用した持続可能な都市づくり
  • 環境への取り組み: つくばエコシティ構想、2030年CO₂排出量50%削減目標

今後の展望

人口動態

つくば市は2040年まで人口増加が続く見込みで、日本国内でも数少ない成長都市として注目されています。2035年には水戸市を抜き、茨城県内最大の都市となる予測です。

インフラ整備

  • TX8両編成化: 2030年代前半のサービス開始を目指して事業進行中
  • TX東京駅延伸: 2025年秋以降、調査実施予定
  • 都心部・臨海地域地下鉄構想との一体整備も検討

研究開発拠点としての発展

  • 世界的な科学技術拠点都市としてさらなる発展を目指す
  • 国際競争力のある研究環境の整備
  • スタートアップ・エコシステムの強化
  • 産学官連携の深化

持続可能な都市づくり

  • 多極ネットワーク型コンパクトシティの推進
  • 環境負荷の低減
  • 多文化共生社会の実現
  • 誰もが住みやすいグローバル都市の構築

外部リンク

この記事の著者

男の感性に火をつける、ライフスタイルWEBマガジン「GENTS-ジェンツ-」運営。
40代を中心とした大人世代に向けて、茨城県南エリアの情報を本当に良いと感じたものだけを厳選して紹介しています。

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