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「正しさ」を手放した先に、見えてくる景色

冬の夜、ふと窓の外を見上げると、冷たく澄んだ空気の向こうに星が瞬いている。あの星々は、どれが「正しい」輝き方をしているのだろうか——そんなことを考えたことはないでしょうか。

あなたは今まで、「正しい人生」を歩もうとしてきただろうか。世間が認める道、親が望んだ道、自分が信じた正義。けれど四十を過ぎ、五十に近づく頃、ふと思うことがある。果たして、自分は本当に「自分の人生」を生きてきたのだろうか、と。

『星を編む』/凪良ゆう

本書は2023年本屋大賞受賞作『汝、星のごとく』の続編として3つの物語から成る。
教師が抱えた秘密、編集者が作家に捧げた魂、そして愛する者を失った後の人生——。それぞれが、世間の「正しさ」からは逸脱しているかもしれない。しかし、当事者にとっては、それこそが「生きる」ということなのだ。

表題作となった「星を編む」では、才能という名の星を輝かせるために魂を燃やす編集者たちが描かれる。彼らは裏方だ。スポットライトを浴びることはない。けれど、誰かの才能を、誰かの物語を、この世に送り出すために自らの時間を注ぐ。

大人になると私たちは誰かの星を編む側に回ることが増える。部下の成長を支え、子どもの可能性を信じ、パートナーの夢を見守る。作家自身が語るように物語は一人では作れない。編集者、校閲、営業、書店員——多くの人の手を経て一冊の本は読者のもとへ届けられる。それは、人生そのものの比喩かもしれない。

凪良作品が描くのは、決して派手な劇的展開ではない。むしろ、日常の中で揺れ動く心の機微。正しくても間違っていても、当事者にとって心地いい関係であればそれでいい——そんな諦観にも似た、しかし温かな視線。

人生の後半戦を迎えた時、私たちに必要なのは「正しさ」の証明ではない。自分の選択を自分の言葉で語れること。誰かに認められなくとも自らの人生を肯定できること。そして、たとえ平凡に見える形であっても、それが自分にとって心地いいのならそれでいい。

一月の寒い夜。暖房の効いた部屋でウイスキーのグラスを傾けながら頁を繰る。星を編むように、あなたもまた誰かの人生に関わり、そして自分の人生を紡いできた。その軌跡をこの一冊は優しく照らしてくれるはずだ。

『星を編む』凪良ゆう 著(講談社)/1760円(税込)

この記事の著者

男の感性に火をつける、ライフスタイルWEBマガジン「GENTS-ジェンツ-」運営。
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